杜の中の閑話室

神社を求め、ただ一人。山へ海へ里を歩く紀行譚!

青森・秋田ひとり旅vol.2 男鹿市「赤神神社五社堂」

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JR羽越本線 羽後牛島駅

弘前を後に秋田入りしたのが17時22分のこと。秋田駅から約40分の乗り換え時間を要し、一駅羽後牛島駅へ到着したのが18時06分だった。なぜわざわざ一駅先まで行くのかというと、駅近に宿泊先となる漫画喫茶「快活CLUB」があるからだ。あえてホテルや旅館ではなく漫喫を利用するのは、安さと気軽さゆえである。

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ひとり旅の味方 快活CLUB

ふかふかのベッドでないから寝坊する心配もないし、いびき症な私でもプライバシーが守られる鍵付防音個室があるし、クーラーの風量は自由に変えられ、暇さえあればネットや漫画も見放題。汗をかいたならコインランドリーで洗濯(別途有料)できるし、シャワーで汗を流すこともできる。ドリンクやアイスも食べ放題のうえ、朝食のトーストやポテトも食べ放題ときたもんだ。途中外出もありだから、入店時に大きな荷物だけ置いてきて身軽な体で周辺をブラブラ外食もできる。

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途中外出して秋田のB級グルメ? 味噌チャンポンを頂く

そして、漫喫に泊まる最大のメリットは何より安いことだ。店舗にもよるが、8時間泊まって2,000円なんて所もある。ビジネスホテルの相場が6,000円〜10,000円だから、宿泊費用が4,000円ほど浮くわけだ。これはかなり大きい。お金のない学生時代の就活の際、友人から教わった漫喫に泊まるという活用方法はひょんなことながら私のひとり旅で活かされている。

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秋田駅からJR男鹿線男鹿なまはげライン)へ乗り換えする 

さて、宿泊に関してはまた別の機会にまとめることにして、明くる日、また元に戻るように電車に乗り、今度は秋田駅からJR男鹿線男鹿なまはげライン)へ乗り換え、1時間弱の鈍行の旅へ出る。行き先はもちろんなまはげゆかりの地「赤神神社五社堂」である。

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JR男鹿駅前の顔出しパネルと五社堂

この「五社堂」、私が秋田旅行を計画する際にネット界隈を縦横無尽に探索して、唯一是が非でも行かねばならぬと心に決めた場所である。秋田県には全国でも珍しく一宮が一社も存在しない県だ。全国の一宮を巡拝する私にとっては魅力映えしない地味な県であるが、青森でも琴線に触れる神社が少なかったために、今回岩木山とセットで訪問することを決心し、はやる胸を抑えつつ今ようやく念願の男鹿へと降り立った次第である。

 

朝9時。人生初のレンタカーを利用し、目的地を目指す。

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角ばったデザインが軽らしからぬ且つワイルドな顔つき

ダイハツの新型タフトという車種らしいが、車を持っていない&車に興味関心がない私にとって、ボタンだらけの車内は異世界の乗り物にさえ感じられた。色々押してみたい衝動に駆られるけども、よそ見をしていては海へ落ちてしまう。

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門前駐車場から門前漁港と馬場崎を望む

それよりもこの風光はどうだろう。私の地元香川にも庄内半島という小さな半島があるが、さすがは本州と言わんばかりであたかも大陸のような高原や雄大な景色に思わずため息が出た。それと同時に郷の瀬戸内海を思い出し、私はなんと遠い所へ来てしまったのかと日本海を眺望した。この日本には、私の知らない世界がまだまだあるような気がして、またこれから行く五社堂となまはげに妙な期待がかかるのであった。

 

男鹿駅近くのレンタカーから車で20分ほど、五社堂の麓の駐車場まで来た。

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門前駐車場のなまはげと五社堂の遥拝殿

大きななまはげ立像に迎えられ、ここから999段の石段を登りお目当ての五社堂と対面する。しかし、この石段がなかなかの難所なのだ。大小不揃いな石が石段と呼べぬほど乱雑に積み上げられ、夏場はちょっとした苦行である。だから決してヒールやサンダルなどを履いて登ろうなんて考えてはならない。宇都宮の「二荒山神社」のような先の見える整斉とした石段ではないからだ。

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五社堂へ続く不揃いな石段

ちなみに駐車場は麓と中間地点の計2箇所ある。少し登った先の中間地点には、入り口の東屋に杖があるからこれを使って登拝すれば多少は楽だろう。

 

それにしても999段とは何とも微妙な段数だ。あえて1000段にしない理由でもあるのかと調べたら、やはり理由があった。というよりこれは当社の伝承である。

 

赤神神社の赤神は漢の武帝といわれている。

その武帝が5匹のコウモリを連れてこの地を訪れた際、コウモリは5匹の鬼となり、武帝の家来となった。さらに一年に一度正月をお休みさせたところ鬼たちは大喜びし、里へ降り、作物や家畜を奪い、遂には里の娘までさらう始末。これに困り果てた村人は、一夜で千段の石段を築くことができれば一年に一人ずつ娘を差しだすが、もしできない時には二度と里に降りてこない、という賭けをした。鬼たちは精魂を尽くして積み上げあと一段!正に完成寸前、というところで「コケコッコー」と一番鶏の鳴き声。鬼たちはあきらめて、約束どおり山奥へと立ち去ったといわれている。

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なまはげさん かいだん がんばったね

娘をさらうような悪どい鬼が約束を守るのかというツッコミはさておき、999段の石段の理由はよく分かった。だがこの不揃いな大小の石段は、数えようにも数えられないものである。そしてこの悪道を制したものだけが五社堂と対面できるのだ。

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パノラマで愉しみたい赤神神社五社堂

五社堂の姿は大変素晴らしく、今までの山道からは想像できないほどに視界が広がり、どうだ!と言わんばかり5社が現れる。案内板にあるように、同型建造物の5社横並びは珍しい。しかも摂社末社の類いの小社が参道や脇に並ぶのはともかくとして、主要の本社(本堂)を一度に正面から拝めるのは、私は日本中探しても唯一無二な場所だと思うし、神社の境内を構成する環境デザインの観点からも類を見ないものである。私がこの神社を是非とも拝みたいと思ったのはこのためなのだ。

 

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セルフ方式の授与所

相も変わらず五社堂の周辺をくまなく散策し、記念に御朱印を頂いた。

当社の授与所は御朱印のみならずお守りやお札までもセルフ方式。つまりは窓を開け、表示された初穂料を指定の場所へ納めて授与品を拝受するという珍しい勝手である。私はありがたく御朱印を頂戴し、その場を後にした。

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屋根を支える柱がシャープ感を醸し出している

それにしても少し滞在が長すぎただろうか。

予定より30分ほどオーバーしてしまった。この後男鹿駅から数分のところにある「海鮮屋」で豪華な鮭いくら丼を頂く予定だったが、真山神社へ掛かる時間を考慮すると厳しい。

 

結局断念してなまはげの本山こと真山神社を優先することにした。初日に岩木山神社を拝み、二日目に五社堂を参拝した。既に旅の目的を達成しているから、最悪このまま帰ったとしても悔いはない。

 

旅の醍醐味は終えてから回想することである。だから急ぐ旅なんてご法度だ。

 

また来よう。

 

人生は長いのだ。

 

行きたければ何度だって行ける。

 

そういう気持ちで今このひと時を愉しんでいる。

 

 

まだまだ続くぞ男鹿の旅!

私は不慣れな運転でも目的地へ着けたことに安堵し、今また次の目的地を目指している。そういえば、ふと男鹿駅に貼られた観光ポスターを思い出した。

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GO!(ゴォー!) OGA!(オッガァー!)