杜の中の閑話室

神社を求め、ただ一人。山へ海へ里を歩く紀行譚!

山梨ひとり旅vol.2 山梨市「窪八幡神社」

山中で出会った某神社が忘れられず、全国一宮めぐりを行う私の中にプラスαで重文指定の神社を加えた旅がはじまった。その神社の最も印象的なのは、古き日本の原風景を想わせる重厚な茅を被った建物であった。感情的趣味嗜好から文化財の指定を受けたわけでは無いのは重々承知だけれど、私の中で「重文=風情ある好い神社」の公式ができ上がって、最近では一味違う旅のスパイスとして訪問するようになった。そしてここ山梨は「窪八幡神社」も文化財の宝庫である。

 

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仏寺を匂わす神門は天文11(1542)年建立と伝わる

本殿をはじめ国の重要文化財は9つを数え、県及び市指定の文化財が6件ある。

 

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境内の様相と室町期に建てられた鐘楼

私は木造鳥居最古の鳥居をくぐり、境内に自転車を停めた。手入れはしつつも自然な状態が保たれ、さすがは文化財の宝庫と言わんばかり古建築の匂いがぷんぷんする。室町時代の古図によると、今日では消滅してしまった随身門や舞台、観音堂などがあったそうだ。それでも神仏混淆時代を示す鐘楼が現存している。そして何より十一間もの長大な本殿がこの宮の最大の見どころである。

 

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十一間もの長大な本殿 正面の黒い柱が掟破りの円柱になっている

十一間とは二本の柱の間を一間(いっけん)とし、それが十一あるから十一間と呼んでいる。仏寺建築には「三十三間堂」という有名な建築もあるが、あれも柱間が33もあるから、その特徴を持って俗にそう呼ばれている。さて神社界に話を戻すと、このような長大な本殿は、京都の「石清水八幡宮」や姫路には「広峯神社」などでわずかに見られるが、流造という建築様式では日本最大の本殿になる。

 

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本殿に呼応して拝殿も十一間 天文22(1553)年、武田信玄による造替

また正面の向拝を支える柱は、普通角柱を用いるのが建築上一応のルールで、ほとんどの神社がこれに則って建造しているのに対し、当社の柱は母屋(祭神の専有空間)で使う円柱が適用されている。これには諸説あるが、やはり勧請が宇佐八幡ということもあって、本家本元の建築様式である八幡造を採用しようとしたが、様式上宇佐八幡ほどの大規模な社殿を建造できない(遠慮もあってか)ために、一応の外殿を示したのだろうと思う。つまり建築様式こそ流造だが、八幡造を意識して簡略化した傾向が見てとれるのである。三間社流造の各三社の間に一間の空間を設け連結させたのも頷ける。このように社殿を細かく見ていくと色々発見があって面白い。

 

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社殿裏には意味深なベンチと外灯がある。ほほう、よくわかっているじゃあないか…。そうだ、神社というのは、表から見るだけがすべてじゃない。斯界の神社ツウなら裏からも見ておかなければならない。それにここにはちゃんと祠という名の観衆がずらりと居るし、なんなら私もその一員に加わって社殿の後ろ姿を味わってみようではないか!

 

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京都のある神社には、社殿裏手に茅葺に用いる茅場があり、そのすぐ近くには茅を保管する倉庫もあった。裏にまわったからこそ発見できた事象であり、その後の宮司との会話に花が咲いたのも記憶に新しい。そしておこがましいかも知れぬが、そこに祀られている祭神と同じ目線に立って眼前の境内や集落を俯瞰することもできたりする。そうだ、私を察してベンチを置いてくれたんだな!?と相も変わらず誇大解釈している自分に笑ってしまう。

 

境内には小さな川もちょろちょろ流れていて、やや湿気を帯びている。季節柄あっという間に蚊を生み出し、私などは瞬殺で喰われてしまった。

 

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甲州名物ほうとうを食す

甲府駅の近くで食べた甲州名物ほうとうには、どでかいかぼちゃや野菜がたくさん入っていて、何気なく入った中華料理屋のラーメンもピリ辛ですこぶるおいしかった。宿泊した快活クラブでは電気シェーバーと歯磨き一式ポーチごと忘れてしまうし、「御朱印欲しくばこの箱開けろ」(正確には御朱印在中)と書かれた箱を開けたものの、すっからかんでガックシ。宮司と思しき宛てに電話しても素っ気ない対応をされてしまったのは田舎の小社だからであって、無愛想だと批判するのはナンセンス。思い返せば、自宅から2時間ほど、一泊二日の小旅行は実に刺激的な旅だった。