杜の中の閑話室

神社を求め、ただ一人。山へ海へ里を歩く紀行譚!

福岡ひとり旅vol.2 久留米市「高良大社」

14時23分に博多駅を発ち、久留米大学前駅に着いたのは15時24分のこと。

 

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久留米大学前駅

そこから約2.5キロの道のりを徒歩35分で高良大社を目指すわけだが、途中にある大鳥居の撮影や神社までの山登りを考慮すると、そんな短時間で行けるのかと不安である。頭の中には授与所の閉まる16時30分を指した時計がみょんみょん渦巻いて、もういっそのことタクシーを使って行ってやろうかとさえ考えてしまう。なんせ久留米大学前駅にはコインロッカーがなく、7キロものリュックを背負って行かねばならないのだから。しかし、高良大社のある山の中腹は標高222メートルとそれほど高くないにしても、当山の情報をまったくといっていいいほど持ち合わせていないのに、こんな安易に登っても大丈夫だろうか。ましてや初めての場所で。

 

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高良大社 大鳥居

だが後になって思うのは、それでも歩いて正解だったということ。

 

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高良大社を目指す散策路 これでも初級コース

森の中の散策路は爽快で、町の空気とはまるで違う。今朝方降った雨の影響だろうか。日陰にはぬかるみができており、私は足早にしかし慎重に一歩一歩を踏みしめた。古い石段もしっかり組まれたところと、崩れて歩きにくいところがある。パンフレットには初級コースと示すこの道も急いで行ける造りではなく、人力で掘り進めたような、そんな歴史を感じる遊歩道である。

 

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社殿全景

そんなこんな、ようやく高良大社のある高良山の中腹にたどり着いた。16時10分、間に合った。呼吸を整える間もないまま参拝し、授与所で歩みを止めたとき、どっと汗が噴出した。…ふぅふぅ、後は自由にやらせてもらうぞ。

 

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社殿前に筑紫平野が広がる

それにしても、御朱印や社殿を眺めるよりも真っ先に目に飛び込んできたのは、眼下に広がる筑紫平野の大パノラマだ。いうまでもなく、ここが高良大社一番の見どころである。夕焼けは息を飲む美しさ、冬の時期は空気が澄んでずっと先まで見通せる絶好の眺めだろう。

 

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九州最大の複合社殿

そして九州最大といわれる社殿は、社殿と神門(中門?)の間が狭いので写真に上手く収めづらいのが個人的難ではあるが、遠近ともに迫力を感じる堂々とした社殿である。本殿と幣殿、拝殿を一つの建物でまとめた当社の社殿は「権現造り」といい、日光東照宮がその好い例だ。寛文元(1661)年、久留米藩主・有馬頼利(ありまよりとし)の造営によるもので、今日まで大きな改変は無いだろう。

 

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昭和初期に撮影された社殿前の古写真(絵葉書)

ところで、私の手元には昭和初期に撮られた古い絵葉書がある。絵葉書には「近く国家の干城(かんじょう)たらんとする筑後の壮丁(そうてい) 高良神社々頭に於ける奉告祭」というキャプションが付けられている。これから軍人となる若者が神恩に感謝し、出征の奉告を行っているといったところだろうか。これを見る限り、神門あたりは80年以上経った今でもほとんど変わっていないようだ。

 

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社殿側から神門を望む

そして神前に立つ人々の思いも、根本的なところでは不変である。

これから出征する若者は、神前で何を思い筑紫平野を眺めたか。行く先々のどこかできっと高良大社を想起した瞬間があったであろう。そしてもし天地に私たちのような意思があるならば、長い神社の歴史の中で我々人間はどのように見えているのだろう。一枚の絵葉書を片手に果てしなく広がる筑紫平野の如く想像をめぐらすのであった。

 

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太宰府に行くはずが、大橋駅前にて

明くる日、私は大橋駅前の博多駅行きのバスに乗った。

大橋駅の近くで宿泊し、これから太宰府へ向かおうとした矢先帰省への衝動に駆られた。高良大社への参拝が、あまりにも心満たされる時間だっただけに、もう新天地への意欲も削がれてしまったのである。

 

備忘録も兼ねて書くが、この旅はGWに四国へ帰省するついでに寄った神社旅である。それゆえ、福岡の大社を一気に廻るなんて無謀な計画は更々なく、ここだけはと絞って参拝した。太宰府へは子どもの頃に一度修学旅行で訪ねており、その記憶を辿るように再訪したいと考えている。その他の宗像、筥崎、英彦山、香椎はまだであるから、今後福岡第2弾、第3弾があるだろう。筥崎へは、職員の新型コロナウイルスへの感染が確認されたとあって、ついに参拝は叶わなかった。