杜の中の閑話室

神社を求め、ただ一人。山へ海へ里を歩く紀行譚!

秋田ひとり旅vol.4 雄勝郡羽後町「三輪神社」

三輪神社社頭

横手の西方に「波宇志別神社神楽殿(はうしわけじんじゃかぐらでん)」という壮大な殿がある。神楽殿ながら柱が太く、さながら正殿とも言えるような存在感がたまらない。その上周囲の緑とのコントラストがまたいい味を醸し出している。これを是非とも拝みたかったが、如何せん鉄道・徒歩・レンタサイクル・バス圏内ではなく、頼みのレンタカー&タクシーも積雪で困難と予想し、今旅は羽後町の「三輪神社」を先行して参拝することにした。

 

現地入りすると、まあ行けなくもないかとは思ったものの、仮にタクシーで訪問できたとしても、あの存在感は周囲の緑あってのものだから、やはりこの時期の訪問は見送って正解だったかも知れない。

 

正面が「三輪神社」左方には「八幡神社」がある

さて、三輪神社は湯沢駅から羽後交通バスで約20分揺られたのち、徒歩数分で眼前にする。創始は養老年間(717〜724)。大和国大神神社」から勧請し、室町時代後期に建てられたという重要文化財の本殿が現存する。これを正面とし、左方に「八幡神社」。右方に「須賀神社」が横並びで建つ。同じ横並びでも春日や熊野の大社と比べまとまりが無いのは、それぞれが全く異なる社であり、なおかつ建立年代の相違や幾らかの修繕や改造を施しているから。

 

須賀神社本殿

その中でも個人的に好きなのは、須賀神社本殿である。

何と言っても空を突くよな大きな屋根が特異。往古は茅葺だった屋根も銅板になり、雪に濡れた黒い頭は、あたかも烏帽子のようだ。この屋根の高さや小屋組は、昭和に行った修理工事報告書にでも詳細が記されているだろうが、まだ手元にないので分からない。

 

雪の舞う須賀神社を斜めから、天気はコロコロ変わる

ちなみに羽後町の積雪は県内屈指で、東部は1メートル越え、西部は2〜3メートルにも及ぶ特別豪雪地帯に指定されている。そういう気象だから、あんな急勾配な屋根を造ったのだろう。その上で正面1間の柱間が狭いのもあって、ことさら屋根の高さが誇張されている。「国宝・重要文化財大全」(毎日新聞社)にも異様とか地域色濃厚なんて字が踊るのも頷けるわけだ。

 

1時間ほどトイレを探しに彷徨っていた間に、鳥居下が除雪されていた。これで50センチほど

境内は想像以上に残雪があり、常に足が埋もれないか気にしながら歩く。深く沈みそうなところは木の枝や杉の葉を配置し、撮りたい所まで近づく。でも途中からあまり沈まないことを知って、いつも通り社殿周りをぐるぐると撮影したり、後方の雪山に登って俯瞰しつつ客観的視点から景観を愉しんだ。気象は雪国特有の曇り時々雪を1日の中短い周期で何度も連続している。私は堂宇の浅い屋根で雪を凌ぎつつ、また須賀神社を撮影した。

 

雄物川」を超えて湯沢へ

この間約1時間と意外にも時間はたっていない。さあそろそろ帰ろうと熱りの覚めたところで、バスが来るまであと1時間はある。気温は2.9度。手袋こそしていないが、体は冷えている。かといってカフェなどもないので、仕方なくバス路線沿いに元来た道を辿り、湯沢市に入ったところでバスと合流することにした。やれやれ、今日も随分歩いたもんだ。

 

羽後交通「幡野」バス停

ここ最近肩幅が広いとか、胸板が厚いと言われるのは、間違いなく重いリュックを背負って神社を歩き回っているからに他ならない。歩いている間は神社で得た見聞をまとめたり、行く先々で出逢う風や匂いを感じたりとすることは色々あって、数キロ位なら意外と歩けるものである。あとはたっぷり寝て朧げな心象を熟すのだ。

 

北は北海道、南は沖縄の果てまで、この国を、この足を使って見て廻ろうと思う。