さあ、峰山だ。こんぴらさんだ。
少し遅めの昼食にラーメンをすすり、私は「金刀比羅神社」を目指した。
先にも書いたように、猫も人間も食べられるという風変わりな猫缶を求めて訪問したのであって、平時のように建築や神社景観を求めて訪れたのではない。とはいっても、遠く京都で見る丸金マークが新鮮で、また懐かしく、故郷の「金刀比羅宮」を思い出しながら参拝した。
ところで、なぜ当社に猫缶があるのかというと、全国でもここでしか見られない珍しき狛猫があるからだ。その狛猫は「木島神社」の前に居る。当社には丹後ちりめん発祥の地に相応しい養蚕の神こと保食神(うけもちのかみ)が祀られており、ちりめんの絹、養蚕の大敵であるネズミから守るために狛犬ならぬ狛猫が置かれたというわけだ。
それにしても、最近の建立かと思えば江戸期に造られたものであり、渋い風貌に納得させられた。ただ一般に狛犬が置かれるところが猫であるだけなので、絵馬やお守りなどはともかくとして、「こまねこまつり」なる祭りを開催するはちと大袈裟なような感がなくもない。とは言いつつ、これにあやかり商品化された猫缶をちゃっかり手にする私である。そう、その予定であった。
「すみません、こちらで人も食べられる猫缶があると聞いて来たのですが、取り扱いはありますでしょうか」
私は授与所の窓口から尋ねた。
「いやあ、もうないですね」
他で扱っている所もどうやら知らないようで、忙しかったのかこんな平然としたやり取りで撃沈してしまった。何だかあっけに取られてしまったので、近くにあるお菓子処「戸田風月堂」にて甘味な饅頭を求めたついでに訊いてみれば、木津の「ペットショップtakao」にあるかも知れないという情報を得た。正しくは「ペットハウスtakao」だが、それはともかくとして、二駅先の「夕日ヶ浦木津温泉」まで行く必要があり、しかもペットホテルとあってはわざわざ行く気にもなれなかった。明日には明日の旅程があり、猫缶ごときに1日ばかり割いてもいられない。まあ、どうしても欲しければまたこの地にお邪魔すればよいだけである。だがそうして心鎮めても、郷里の愛猫を想うと少々残念だった。
(蛇足だが、「こまねこまつり」などのイベント時に合わせて作っているのかも知れない)
さて、今夜お世話になる「アワノ旅館」は、間口からは想像できないほどに長い廊下を有し、何から何までレトロな宿であった。私が泊まったのは当然畳の間であり、入室の際には既に寝床が用意され、漫画喫茶と比べれば何と贅沢な部屋なのかと嬉嬉として寝転がったものだ。コンビニで買った夕食も格別美味しく感じるし、寝そべりながら観戦した阪神戦も劇的勝利を収め、私にとってはもはや何も要らず、ローソクの火が下火になるようにゆっくり入眠するものだと思っていた。
だが、この部屋には鍵がないのだ。それが、たったそれだけのことが頭の片隅にあって不安だったのだろう。夜中黒い影に襲われるような白昼夢の如き幻を見て、冷や汗をかきつつ早朝4時に目が覚めた。まだたった2時間しか寝ておらぬ。寝惚け眼をこすりつつ、外からは清々しいさえずりが聞こえてきた。
書かねばならぬ。今日はまた珍しい見聞があるのだ。