杜の中の閑話室

神社を求め、ただ一人。山へ海へ里を歩く紀行譚!

長崎ひとり旅vol.2 対馬市「和多都美神社」

「ビジネスホテルつたや」で宿泊 神社の側で宿が取れて良かった

昨日送迎までの待ち時間に買った「かすまき」は結局口にせず、家に持ち帰ることにした。賞味期限とかサックの中で潰れてしまうことも危惧したが、まあ大丈夫だろう。そんなことより、今日の雨の方が心配だ。いや雨だけならまだいい。どうもこれから風が強くなりそうで、神社よりむしろ本土に帰れるかどうかの方が気掛かりだ。私はホテルの部屋から外を窺いつつ、九州汽船の運行状況に目を遣った。今のところ問題なさそうだが、今後どうだろう。とりあえず、なるたけ早めに宿を発とう。

 

対馬名所「和多都美神社」の海中鳥居

これから向かう「和多都美(わたづみ)神社」は対馬の豊玉町という所にあり、海中に浮かぶ鳥居が有名である。その美しい景観と共にパワースポットとしてもよく知られ、対馬の観光ではベスト3にランクインするほどだが、鳥居も新しいしどこか作られたような景観はちょっぴり悩ましい。それでも行こうと思い至ったのは、当社の厳かな杜を見てからだろうか。もはや一宮はクリアしている。雨の中どこまで行けるか。とりあえず車を進めた。

 

天気が悪いからというより朝早いからか、一人たりとも居らず

昨日の天候とは打って変わって分厚い雲が広がっている。単なる満ち潮なのか仁位(にい)川の水位も上り、黒い川面を打つ雨が少し不気味だ。案の定、こんな悪天候に参拝者など居ない。早速鳥居を収めてもなんか決まらないのも天候のせいだろうか。あのガイドブックや観光案内に載っているような美しい写真はどうやっても撮れなかった。今日は風もあるから国旗もばたばたとはためいて、時折ポールに金具が当たる音なのかカンカン聞こえてくる。その音があまり悠長にはしておれぬと、杜の奥へ急がずには居られなかった。

 

社叢への入域には拝観料100円がかかる(後になって気付いた)

長崎県の天然記念物にも指定されているこの杜は、社殿の左手から入る。路には白い細かな玉砂利が敷かれ、路に沿ってロープが張られている。それはまるで伊勢の神宮を彷彿とさせる景観で、まさに清浄そのものだった。進むと左手に「豊玉姫之御陵墓」という大きな磐座がある。古くは夫婦岩との記録があり、奥の段が豊玉彦命、手前の段が豊玉姫命の神威を宿しているという。さらに磐座の向こうには、豊玉姫がお産のために腰を掛け血を流したという腰掛け岩があるらしく、神社サイドは「祟り石のため絶対にこの先に立ち入ったり、石に触れては行けない」とも警告している。そもそも昔はこの御陵墓(磐座)自体が禁足地だったらしく、今日では手前の鳥居から撮影不許可としている。そのため私もどのような磐座だったかは今や判然としない。まあ元来人に見せる所ではなく、今日でも大々的に知らせるものでもないから事細かに書くのも如何なものかとも思うが、気になった人は行ってみればよろしい。

 

社殿を裏から撮るのも好き

さて、左手の御陵墓を参詣後、参道の先には直ぐに鳥居が見えた。どうもここまでのようだ。右を見ても左を見ても、荒れた山に車の通るコンクリの道がある。私はまた元来た道を引き返した。少しばかり小康していた雨は杜の木々が傘になっていたのか、また社頭まで出てくると雨風が強くなり、持っている傘が煽られて上手く写真が撮れなくなった。それでもここまで来れたのが良かった。対馬なんてそうそう来れる訳もなし。念願の海神神社にも訪問できたのでもう十分だ。山は轟々と音を立て、矢の如く飛ぶ雨に私は傘で応戦した。(山よ海よ)ありがたい、ありがたい。

 

授与所が開くまで車で待機 これからの予定も考える

身体は濡れ、風もあって少し寒い。こんな中境内の碑文を熱心に読んでいる女が一人。物好きな者が居たもんだ。境内まで車を移動させ、授与所が開く時間まで待っておったら、今度はツーリングの一行が現れて、当然の如く海中鳥居を収めていた。こんな雨の中、まったく物好きな者が居たもんだ。とはいえ大型連休のこの頃に、この悪天候皆予定を変更したり、断念したものも多いのではないか。とにかく外で何かするなんて考えられない天候だ。釣竿を持ったあの人も今日はホテルだろう。私も目と鼻の先にあった「烏帽子岳(えぼしだけ)展望所」へ行くのを諦めて、元寇の古戦場「小茂田浜(こもだはま)神社」に遣唐使遣新羅使(けんしらぎし)が通ったと伝わる「西漕手(にしのこいで)」も皆んな皆んな諦めた。そんな天候だったのである。

 

「からあげうえき」でチキン南蛮弁当をテイクアウト。美津島総合公園に停めて車内で昼食。
晴れていれば外で食べるのも良かろうが。

それからというもの、何か美味いものを口にしたくなったが、天候の影響を受けてか何処にも入らず、テイクアウトでチキン南蛮弁当を買って大きな駐車場の車内でひとり昼食をとった。天候の影響は頗る大きい。海中鳥居の撮影だって、大海を前にするとおどろおどろしい。背を向けると風に煽られて、というか何者かに押されているような感覚になり、まるで海が私を引き摺り込もうとしているようなそんな恐ろしさがあった。「対馬やまねこ空港」の大きな滑走路だって、晴れていれば何のその。ただ風雨の影響だろうか、何もない平らな場所を目の前にすると恐ろしくも感じたものだ。そんなことを回想して、大きな鶏肉を口一杯に頬張った。

 

フェリーターミナルで待機、ここからが長かった

対馬の旅はこれで終わりである。レンタカーを返したら、店の者が厳原港まで送ってくれた。しかしここからが難関というか、まあ当然といえば当然だが、実は船酔いにやられてしまったのである。こういう時のために酔い止めの一錠でも用意しておけば良かったのに、そこまで頭が回らないところ私はまだ未熟である。そして島旅の面白さも今ひとつ見出せていないというか。

 

まあ酔い止めに関しては、一つ教訓ですな。