杜の中の閑話室

神社を求め、ただ一人。山へ海へ里を歩く紀行譚!

鳥取ひとり旅vol.2 鳥取市「宇倍神社」

初詣より静かな年末に参拝したい。

5年ほど前、讃岐国一宮「田村神社」や「岡山県護国神社」を訪れた際、年末は年始に比べ人が少なくゆっくり参拝できることを身をもって知った。以来、私はあえて年の瀬を意識して詣でるようになったのである。

 

2017年12月31日 岡山縣護国神社の一景

特に岡山県護国神社への参詣を思い出す。正中を突くよな参道と道沿いの提灯。神楽殿には大きな干支の絵馬が置かれている。既に新年を迎えんとする今この場に於いて、この広い境内に私以外1人たりとも居らず、数時間後に来る賑やかな様相と現状とのギャップにしみじみ思ったものだ。

 

宇倍神社の社前にテントが組まれる

しかしながら、当然初詣の準備中というタイミングにぶつかることもあって、今回訪れた「宇倍神社」は正にその最中であった。どこから来たのか、工事用車両が社前に立ち並び、作業者がテントの組み立てにトンカントンカン。おまけに社殿の裏山からけたたましい音が聞こえてくる。てっきり雪かと思い空を仰げば、それはチェーンソーで枝を切った後に出る木屑であった。長い石段を登り切った先にまさか斯様な光景があったとは…。

 

長い石段

ただ私が一番愉しみにしていたのは雪景の山陰「鳥取東照宮」であり、「宇倍神社」ではない。それでもどうせ来たからと、半ばついで参拝のような気持ちでこの一宮の鳥居を潜ったのだ。まあ強いて言えば社殿を撮りたいというのはあっただろうか。

 

枝木をカットするのは、本殿を痛めないためでもある

宇倍神社の社殿はすべて檜皮葺と格調高く、また中門の湾曲した緩やかな屋根の形状が、上品で温和で優しい印象を受ける。社殿にこしらえた金の装飾がきらりと光り、随所に亀紋という珍しい神紋があしらわれている。そんな気取らない風貌に一度拝んでみたいという心境を持ち合わせてはいたが、今回はテントとのツーショットとなってしまいこの一景を季節柄として受け入れるしかなかった。そういう事象もあってか、この旅では当社よりむしろグルメとか「仁風閣」の印象が残っている。

 

鳥取ご当地グルメ 武蔵野食堂の素ラーメン

鳥取東照宮の参拝後に私は素(す)ラーメンという一風変わった食べ物を口にした。

麺は細めでちぢれており、うどんのような強いコシはなく、喉の奥までするりと入り、抵抗らしいものは何もない。器の底まで透き通るような昆布だしは、一見すると薄味のようだが、実はしっかり味がついている。かといってラーメンらしい油はまったくないから、まるで飲料水を口にするように最後までごくごくいけてしまう。なんなら朝とか小腹が空いたときに一杯なんてものもありかもしれない。それほど軽い食べ物なのだ。素ラーメンは安価で素朴でうまい!昔からこの土地で食べられている庶民の優しい味といったところだろう。

私はお店から頂いた「創業明治45年武蔵家食堂」と書かれたリーフレットを見返すたびに今もあの優しい味を思い出す。近くに寄らば、是非もう一杯といきたいところである。

 

右)随員(ずいいん)控室。皇太子に随行した東郷平八郎もここで控えたのでは。

さて、腹ごしらえも済んで次に寄ったのが、鳥取城内に聳える白亜の洋館「仁風閣」(じんぷうかく)。国の重要文化財に指定されているこの建物は、鳥取旧藩主池田家14代の池田仲博(なかひろ)侯爵が嘉仁(よしひと)皇太子(後の大正天皇)の山陰行啓の宿泊施設として、明治40(1907)年に建てた。白亜のフランス風ルネサンス様式はさることながら、当時鳥取県内で初めてとなる電灯が灯され、鳥取の近代化を伝える象徴ともなった。

 

豪勢と品位を兼ね備えた「仁風閣」

建物はどこから見ても美しいが、特におすすめなのが「宝隆院(ほうりゅういん)庭園」からの景観。春夏秋冬、人が居ても絵になる一景である。